頭痛はあらゆる病気の中で最も頻度が高い疾患の1つであり、世界の約半数の人は頭痛を持っている。
片頭痛は健康への障害度が大きい疾患の第2位(50歳未満の女性では第1位)である。
世界における頭痛の頻度について、2022年の報告では全年齢における頭痛の有病率(ある一時点において、その疾患を有している人の割合)は52%、毎日世界人口の15.8%が頭痛に悩まされており、頭痛はこの世のあらゆる病気の中で最も頻度の高い疾患の1つとされています。1
病気が健康におよぼす影響について、それぞれの病気の特徴により寿命が短くなる病気もあれば、寿命は短くならないけれども健康的に過ごすことができる期間が短くなる病気もあります。このため、病気による健康への障害度を調査する際には、病気の特徴にあわせて以下のように複数の指標が使い分けられています。
<病気による健康への障害度を表す指標>
◉障害調整生存年(DALYs: disability-adjusted life years):病気によって理想的な平均余命から乖離した年数
◉損失生存年数(YLLs: years of life lost):病気によって理想的な平均余命から早期死亡によって失われる年数
◉障害生存年数(YLDs: years lived with disability):病気によって健康を損なった状態で過ごす年数
これらの指標をもとに世界中の健康の増減を定量化する世界疾病負荷調査(GBD: global burden of disease study)が実施されてきました。2019年版(GBD2019)において、頭痛の代表的疾患である片頭痛は、全体におけるYLDsの大きい疾患の第2位、50歳未満の女性では第1位であり、片頭痛は寿命への影響は大きくないものの、健康への障害が大きい疾患であることがわかります。2
性別 | 年齢 | 原因 |
YLDs
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全体 | 全年齢 | 1.腰背部痛 |
7.4
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2.片頭痛 |
4.9
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3.聴力低下 |
4.7
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15-49歳 | 1.腰背部痛 |
7.6
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2.片頭痛 |
7.3
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3.大うつ病 |
5.8
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男性 | 全年齢 | 1.腰背部痛 |
7.0
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2.聴力低下 |
5.2
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3.2型糖尿病 |
4.7
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4.片頭痛 |
4.1
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15-49歳 | 1.腰背部痛 |
7.8
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2.片頭痛 |
6.3
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3.大うつ病 |
5.2
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女性 | 全年齢 | 1.腰背部痛 |
7.7
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2.片頭痛 |
5.5
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3.その他の筋骨格疾患 |
5.0
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15-49歳 | 1.片頭痛 |
8.0
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2.腰背部痛 |
7.4
|
||
3.大うつ病 |
6.2
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頭痛は367種類に分類される。
頭痛診療は“命にかかわらない頭痛(一次性頭痛)”と“命にかかわる危険性がある頭痛(二次性頭痛)”を区別することから始まる。
頭痛にはさまざまなタイプがあり、現在使用されている国際頭痛分類(ICHD-3)では367種類に分類されています。頭痛診療において、正しく診断をすることが最も重要であり、正しい診断が早期の頭痛の改善につながります。頭痛診療においてもっとも大切なことは、“命にかかわらない頭痛(一次性頭痛)”と“命にかかわる危険性がある頭痛(二次性頭痛)”をしっかりと鑑別することです。
頭部MRIは一次性頭痛と二次性頭痛を鑑別するのに役立つ
二次性頭痛の代表的疾患であるくも膜下出血では、速やかに診断をして適切な処置を行わないと重篤な経過をたどる可能性があります。このため、頭痛診療においては常に二次性頭痛の徴候がないかを念頭に置いて診療を行っています。
二次性頭痛を診断するためにはいろいろな検査が行われますが、中でも頭部MRIは診断において重要です。問診や診察所見だけでは一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別が難しいケースもあるため、頭痛について初めてご相談に来られた患者さんには頭部MRI撮像をお薦めしています。また、MRI撮像における副次的な効果として、一次性頭痛の患者さんでも頭部MRIで異常がないことがわかると、心理的な安心につながり、頭痛が生じたときの不安等が軽減される場合があります。
片頭痛は非常にありふれた病気である。
片頭痛は単なる”頭痛だけ”の病気ではなく、多彩な症状を呈し、個人の生活への影響や国家に対する経済的損失が大きい病気である。
日本における一次性頭痛患者は4,000万人、そのうち片頭痛患者は840万人といわれ、片頭痛は頭痛のうちの患者数No.1です3。日本において片頭痛の有病率(ある一時点においてその病気を有している人の割合)は、女性 12.9%、男性 3.6%と女性が男性の約3.6倍多くなっています3。女性においては特に30~40歳代の患者が多く、頭痛が仕事や子育てに深刻な影響を及ぼしているケースも少なくありません。
片頭痛は一次性頭痛であり、基本的には命にかかわるおそれはありませんが、片頭痛は決して”頭痛だけ”の疾患ではなく、うつ症状、不安、認識力の低下、過敏性などの頭痛以外の症状を伴います。これらの症状は”頭痛があるとき(発作時)”に生じるのみでなく、”頭痛がないとき”にも生じます。
片頭痛は、主に現役世代に対して頭痛および多彩な随伴症状を生じさせることで労働生産性が低下し、日本では片頭痛によって年間3,600億円~2兆3,000億円の経済的損失が発生しているといわれています(京都頭痛宣言 2005)。
片頭痛の発生メカニズムとして、三叉神経血管説が有力である。
片頭痛発作発生のメカニズムは完全には解明されていませんが、現在広く受け入れられているのが「三叉神経血管説」です。何らかの刺激によって、硬膜血管周囲に分布する三叉神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やサブスタンスPなど複数の神経ペプチドが放出されると、主に硬膜などの血管周辺で血管拡張、血漿蛋白の漏出、肥満細胞の脱顆粒、すなわち神経原性炎症が発生します。神経原性炎症は三叉神経を刺激し、疼痛シグナルが中枢へ伝達されると、大脳皮質で「痛み」が知覚されます。
片頭痛治療は急性期治療と予防療法の両輪が重要となる。
片頭痛の治療は大きく分けて急性期治療と予防療法の2つに分けられますが、多くの片頭痛患者で急性期治療と予防療法を併用して治療を行います。
急性期治療の目的は、片頭痛発作を確実に速やかに消失させ、頭痛発作による様々な機能障害を回復させることです。急性期治療では、治療2時間後の頭痛の消失または明らかな軽減を目標にします。
予防療法は、片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある場合に実施を検討します。予防療法の目的は、発作頻度の減少、重症度の軽減、頭痛持続時間の短縮、急性期治療薬の効果を高める等です。
急性期治療の基本は様々なシーンに応じて自分にあった治療をみつけること
主な急性期治療は、①アセトアミノフェン、②非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、③トリプタン、④エルゴタミン、⑤制吐薬などがあります。軽度~中等度の頭痛にはアセトアミノフェン・NSAIDSを使用し、中等度~重度の頭痛や軽度~中等度でもアセトアミノフェン・NSAIDSが無効の頭痛にはトリプタンが推奨されます。日本では5種類のトリプタンが使用可能であり、患者の症状や副作用の程度に応じて自分にあったトリプタンを見つけることが重要です。トリプタンの効果が不十分の場合にはアセトアミノフェン・NSAIDSとの併用やジタンの使用が考慮されます。
従来の予防療法で効果が不十分の場合はCGRP関連製剤の使用を考慮する
片頭痛の予防療法としては従来、抗てんかん薬、β遮断薬、抗うつ薬など別の適応をもつ薬剤が経験的に片頭痛を軽減させることが知られ、用いられてきました。2021年にCGRPを選択的に阻害する薬剤(CGRP関連製剤)として抗CGRP抗体と抗CGRP受容体抗体が承認され、従来の予防療法の効果が不十分であったり、副作用で使用できない患者に対して使用されています。
抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)は、頭部の感覚を司る三叉神経系に多く発現していることが知られています。CGRPは脳の周囲の血管の平滑筋細胞に発現しているCGRP受容体に作用して、血管拡張、神経原性炎症などに関与します。抗CGRP抗体はCGRP自体に結合し、抗CGRP受容体抗体はCGRP受容体に結合します。いずれもCGRPを介する疼痛シグナルをブロックすることでCGRPを無効化し、痛みの発生を抑制します。CGRP関連製剤は、既存の片頭痛予防治療薬が効かなかったり、不十分であったりした患者に対しても有効性が確認されています。反復性片頭痛だけでなく、慢性片頭痛にも効果があり、従来の予防療法では片頭痛日数や重症度の改善が不十分な方に対して、導入を行っています。
当院では脳神経内科専門医が頭痛診療を担当します。詳細な病歴聴取、神経学的診察、頭部CTもしくはMRIなどの画像検査を駆使し、正しい診断を心がけています。片頭痛においては、CGRP関連製剤をはじめ上記でご紹介した治療を受けて頂くことができます。若年層の患者さんも多く、勉学、就労、子育てなど様々なライフステージにおいて最適な頭痛治療をお届けすることを目標に診療にあたっています。頭痛診療にご興味のある方はお気軽にお問合せください。
担当医 | 沖 良祐(神経内科専門医) |
診察日程 | 月曜午前*、火曜午後**、木曜午後**、第1・3土曜午前*** (*午前 8:30-12:00, **午後 13:30-16:30, ***土曜診療は原則第1・3ですが月ごとに予定が変更となる可能性がありますので病院ホームページで診察日程をご確認ください) |
予約方法 | 病院代表番号(088-882-3126)までご連絡ください |
当院では頭痛診療において以下の診療ツールを使用しています。ご希望の方は各資料をダウンロードしてご使用ください。
◉1. Stovner LJ, Hagen K, Linde M, Steiner TJ. The global prevalence of headache: an update, with analysis of the influences of methodological factors on prevalence estimates. Journal of Headache and Pain. 2022;23(1). doi:10.1186/s10194-022-01402-2
◉2. Steiner TJ, Stovner LJ, Jensen R, Uluduz D, Katsarava Z. Migraine remains second among the world’s causes of disability, and first among young women: findings from GBD2019. Journal of Headache and Pain. 2020;21(1). doi:10.1186/s10194-020-01208-0
◉3. Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22. 10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x.